企業総務渉外・自治体秘書課を指導する「警察・暴対マニュアル」を検証する


 まず、警察庁暴力団対策部監修の「不当要求防止責任者教本」の目次から、

第1章 実態編
1、暴力団の実態
  @暴力団組繊の特質
  A暴力団員の特徴
  B最近の暴力団の特徴的動向
2、民事介入暴力の手口
  @民事介入暴力の3段階
  A典型的な脅しのテクニック

第2章 法令編
1、暴力団対策法制定の意義と槻要
2、指定暴力団の指定
3、暴力的要求行為の規制など
  @暴力的要求行為の禁止
  A暴力的要求行為の要求等の禁止
  B暴力的要求行為等に対する措置命令
  C指定暴力団等の業務等に関し行われる暴力的要求行為に係る再発防止命令
  D準暴力的要求行為の要求等の禁止等
  E準暴力的要求行為の禁止等
  F暴力的要求行為又は準暴力的要求行為の相手方に対する援助
4、事務所等における禁止行為
5、暴力追放運動推進センター
  @暴力追放運動推進センター制度の槻要
  A暴力追放運動推進センターの行う事業内容
6、離脱希望者に対する援助等

第3章 実務対応編
1、不当要求に対する対応の基本的配慮事項
  @組織的対応方法
  A不当要求防止責任者としての資質
2、暴力団員に対する応対要領
  @ 応対の基本的心構え
  A主な具体的応対要領
3、警察、暴追センターへの通放、相談
  @警察への通報、相談
  A暴対センターヘの相談
4、暴力団排除活動への協力
  @暴力団排除活動の重要性
  A暴力団排除活動への協力〈付録1
指定暴力団一覧表  (付録2)暴力追放運動推進センター一覧表

 この中で、特筆するべきは、第3章実務対応編 1、不当要求に対する対応の基本的配慮事項−である。これは、前田警視総監が一昨年から(主として)東京の大手企業に対して、常軌を逸した「強硬的指導・命令」を連発していた内容とは完全に矛盾するのである。

 本教本は、平成4年12月の初版で、これは平成10年4月1日の6訂版第1刷である。

 前田警視総監は企業の総務担当役員に対して『総務に渉外専門部署など必要ない、そんな部署があるから総会屋や右翼と応対して機関紙・情報誌などを購入するのだ、これからの企業に総務渉外窓口は不要だ、総会屋や右翼・暴力団などと会うことが業務であるのは異常だ』などの主旨を繰り返し繰り返し、圧力として企業に覆いかぶせてせてきた。その結果として総ての企業が購読を中止し、(主として)東京の企業などは総務渉外窓口を閉鎖、担当者を左遷・退職に追いやった。以前からの総務渉外窓口担当者が健在な企業は50社もないと思われるが、今回の特集はその総務渉外窓口担当者が是非とも必要だという「警察庁」の指導なのであるででは、小見出しをピックアップする。

(1)組織的対応方法
  @トップの毅然たる対応方針とその首徹貫徹
  A不当要求防止責任者の選任
  B報告、連格態勢の確立
  C各部門の協力
  D不当要求防止責任者への組織的支援
  E教育の徹底、実戦的訓練
  F機器の準備
  G被害を受けない環境作り
  H資料の整備
  R警察及び暴追センターヘの早期相談
(2)不当要求防止責任者としての資質
  @正義感のある意志の強い人(基本方針の厳守)
  A意思表示を明確にできる人
  B研究熱心な人(情報収集及び関係法令の研究)

 これら小見出しだけで分かる通り、「不当要求防止責任者」とは「総務渉外窓口担当者」のことなのである。次に、兵庫県警察本部暴力団対策第1課と財団法人暴力団追放兵庫県民センターが編集した『暴対マニュアル、企業対暴力編』の目次を見てみよう。

1、暴力団とは
  @暴力団の発生と社会的背景
  A暴力団の資金源
  B暴力団の特質
2、企業が狙われる理由
  @経済力がある
  A恐喝の材料が多い
  B信用を重んじる
3、脅しのテクニック
  @脅しの決まり文句
  A威圧する方法
  Bその他のテクニック
4、応対の基本的な心構え
  @組織的な応対
  A警察への届出が前提
  B必要以上に恐れない
5、具体的な応対要領
  @応対時間は短く
  A相手より多い人数で
  B応対は有利な場所で
  C応対のポイント

 このようになっており、全体的には警察庁の教本と類似している。ただ、ここでは企業がターゲットになる理由・対策が詳しく書かれている。そして、不当要求や準暴力的行為を企業に対して行う者は「暴対法の対象者」であるという前提を設けて、総会屋・右翼・同和を名乗り、株主権を不当に行使したり、政治運動や社会運動を標榜して機関紙・情報誌の購読、特別賛助金(会費・購入)等を要求する行為を対象と考えている。

 しかし、一概に「総会屋・右翼・同和」というのではなく、『不当要求行為を企業に対して行う者』としているのである。よって、これの捉え方は多分に「主観的」なものにならざるを得ない。指定暴力団組員や各警察署認定の不良分子などを例外とすれば、警察庁の基本的姿勢・国税当局の判断にさえ適っていれば、あくまで主体は「企業」そのものなのである。なお、このマニュアルは平成10年4月3日発行のものである。

 利益供与事件の当事者となった多くの企業では、「反省」のポーズと「不良総会屋・不良右翼・不良同和」との対応に辟易した結果として、総務渉外窓口を一斉に閉鎖して担当者を左遷・退職とした。なんともなかった企業においても、警視庁が「いつ・どんな理由をでっち上げて」役員に出頭要請するかもしれないので、ここは「右へ倣え」で窓口を閉鎖していたのである。

 渉外担当者は専門職であり、一朝一夕に身につく技術やノウハウではないし、絶えず来客が様々の情報をもたらせてくれ、自社や他社(渉外担当者同士の連格会議を行い)の「企業防衛」に役立つ情報(経営戦略や営業拡大に繋がる情報は殆どない)を集積・利用することで存在価値があったのである。また、渉外担当者の多くは役員直轄的な存在で、良い担当者を持つ企業はトラブルも少なく、トラブルが起こっても解決が早いのである。これは何も、無制限に金をばらまいているのではなく、「法人の自己防衛としての戦術」を担当者が進めていることなのである。

 前田警視総監は「大きなナマズを取りたいために、池にダイナマイトを投げ込んだ」愚か者だと言える。荒れた池が元通りになって魚が泳ぎ回るには、まだまだ時間が必要である。

 今回の結論的には、「警察庁が平成10年の指導として、企業に不当要求防止責任者である渉外窓口担当者を置くことを奨励している」という事実を重大に考え、平成11年度からの企業総務の対応を注視したい。