経済同友会が発表した『今後の日中関係への提言 −日中両国政府へのメッセージ− 20064月 20060509日 2005年度中国委員会委員長 勝俣宣夫(丸紅 取締役社長)』は唾棄すべき破廉恥の極みと言うべきものであり、心ある多くの人々の顰蹙をかった。現在の日本企業による拝金・営利至上主義を肯定し文章にすると、あのような恥知らずな開き直り提言になるのであろう。しかし、売国・亡国行為を是とし利潤追求こそが全てであるとする企業はいくらでもある。香港を間に入れ、中共の盗掘ガス田にチームレスパイプを売り飛ばした企業、テポドン用の材料を北朝鮮に売り飛ばした企業、悲しいかな数え上げればきりがないのが現実である。そして、恥知らずな売国・亡国商行為はすでに日常的行為となっている。

 本稿は当時の売国・亡国商行為の極みともいえる利敵商行為を行い、アジア太平洋地域の軍事バランスを大きく変え、国民に多大な損害を与えた石川島播磨重工と、のさばりだした売国・亡国商人のエゴに対し警鐘を鳴らした「経団連事件」を踏まえて「民族戦線」創刊号(昭和54315日(木))に掲載されたものであり、現代日本に巣食う売国・亡国的拝金営利至上主義という商道から外れた唾棄すべき商行為というものを考える一助となれば幸いである。


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国益を売り渡す売国的企業に正義の鉄槌を

石川島播磨の浮きドック建造にみる亡国的利権構造

IHI浮きドック問題調査会

経団連事件の意味したもの
 かつて自滅によらずして滅びざりし民族はない″との先哲の警告は現代日本にとって重大な意味を有している。

 八〇年代危機説″が真剣に論議されるべき激動の新たな時代の関頭に立ち、我々は日本民族の生存と繁栄のために、民族の英知を尽し将来を洞察し、実効ある方策を勇敢に遂行、千載に悔なき努力を傾注すべきである。

 日本をめぐる内外の環境は激動″の一語で表わすには、余りにも激しく移り変っている。にもかかわらず、わが国の安全保障の実態を直視するなら、国際政治の現実と余りに隔絶した非現実的な対応に過ぎないことに驚愕せざるを得ない。戦後三十余年、圧倒的な軍事力を保有してきた米国に国家の死活を制する問題すら依存し、物心両面にわたる自主自力の努力を全く放棄し他国依存の平和と安全を享受し、ひたすら経済大国への道を邁進し続けてきた。

 本来国家の安全保障を支える力″とは、国家の潜在的、顕在的力″の総合されたものであり軍事、政治(外交)、経済、社会といった軍事的、非軍事的要素が国家目標に照らした役割と機能を一元的に秩序立て相互補完的、総合的に運用されることが必要であることは諭を俟たない。とりわけ、わが國の如く未曽有の敗戦に伴う米占領軍の日本弱体化政策=非軍事化によって、「平和憲法」を僭称する占領憲法とそれを補完し日本封じ込めを目的とする日米安保によって金縛りにあっている現状においては、経済的パワーを民族防衛の国家戦略策定のカギとする必要がある。軍事的小人でしかない経済的巨人=日本人は戦争もしくは戦争の脅威に対し極めて脆弱なものでしかない。早急に軍事的巨人の圧力をはね返すだけの適切な国防力を整備しなければならないが、段階的には超近代的な軍事力を建設し得る潜在力=経済力を国家防衛の大きな柱として駆使する必要がある。

 しかし現実においては、国家の安全保障策にとって大きな力となるべき、経済″が利潤の極大化を目指すというその性傾において民族、国家を滅ぼしかねない要素になりつつあることを、我々は重大な関心を持って指摘しなければならない。今から二年前、伊藤好雄、野村秋介氏等「YP体制打倒青年同盟」の四人の青年が、経団連をターゲットにし、国家不在の戦後日本を直撃したのは経済″が国家″を離れて一人歩きし、国家そのものをも否定しかねない、戦後状況に対する必死の告発であった。

 YP体制打倒青年同盟」の激に曰く。「大東亜戦争の敗北によって廃墟と化した戦後日本の復興に、財界が少なからぬ寄与をし、如何にその指導的役割を果してきたか、これまでの歴史的事実をわれわれは決して軽んずるものではない。しかしその反面において、諸君らの営利至上主義が、どれほど今日の日本を毒し、日本の荒廃と混迷を促し、社会世相の頽廃を煽ってきたか、その罪状看過すべからざるものがある(略)。
 祖國民族あるを忘れ、大衆国民のあるを軽んずるこの天を恐れぬ君らの所業は、必ずや日本を、否全人類をも滅ぼすことを必至である(略)。

 古代ローマは平和を貧ることによって自ら滅んだ。祖國日本が同じ轍を踏むのを座して看過できない。日本を滅ぼしてはならない。営利至上主義のために『祖國』を見失ってはならない。」

 利潤の極大化を至上目的とする企業が多少の非社会的行為をすることに我々は一々目くじらたてるものではないが、事が国家の根幹にかかわることであれば我々は黙過し難い。かつて核防条約反対闘争に際し最も先鋭的な反対分子であったはずの財界が、自分達の企業エゴのみが死守されると豹変して、積極的な核防批准派に回って日本の核武装の権利を圧殺してしまったこと、近くは何らの国家戦略、外交戦略も見い出せぬまま中共の立場のみを景気打開策と見込んで日中条約批准の旗振り役をつとめたことなど、民族と国家に対する数々の裏切り行為を我々は断じて忘れることはできない。

キエフ型空母用の浮きドックを輸出した石播の反民族的犯罪
 我々がここで指摘するのは一企業の独断先行によって世界の軍事バランスが大きく変わり、日本をめぐる危局が一層深刻になっていること。さらにこの売国的商行為によって父祖の地=北方領土の返還が益々絶望的になっているという民族的犯罪行為の事実についてである。しかし我々のこの指摘は、すでに時誼を逸し、既成事実として日本民族の生存を大きく脅かしている。我々は重大なる犯罪的行為が行われたにもかかわらず、これに注意を喚起をできず、何ら有効適切な対処をなし得なかったことに、痛切なる自責の念を禁じざるを得ない。二度と再びかかる売国的、亡国的商人の横暴を許さぬためにも如何にして一企業が国益を敵国に売り渡したかを問い直してみたい。

 一部週刊誌等において問題の所存が指摘されながら、当時この件について重大な関心を惹起し得なかったことは深く自己批判するものである。去年十月二日石川島播磨重工業が建造した世界最大の浮きドックがソ連海軍の手に引き渡され、ソ連極東水域の要となるキエフ型空母の動く補修基地″として、わが父祖の地=北方領土における最大の島=択捉島の単冠湾に配備されている可能性が極めて高く、ソ連の極東戦略に自らが乗って、脅威の一面になっているという事実である。

 オイルショック以降、日本経済は出口の見えないスターダフレーションに苦しめられたが、中でも鉄鋼業界、造船業界は、円高、アメリカ、EC市場からの締め出しなどで不況のどん底にあった。日本株式会社″を代表する新日鉄など、新たな市場開拓として強引な日中フィバーを演出したことは記憶に新しい。

 昨年夏、経団連会長・土光敏夫は超大型商談″と称してモスクワを訪れたが、厳重な報道管制の下に、我々国民はその内実をうかがい知ることができなかった。従来日ソ間の商談は小松製作所のブルドーザー関係を中心に進められてきたが、財界総理・土光が訪ソすることによって、土光の出身会社石川島播磨重工業が久々の大型受注をラインに乗せることができた事実が後日になって判明した。この「久々の大型受注」とは全ソ船舶輸入公団を発注先とする工費百三十億円に及ぶ超大型浮きドックであった。

 石播が建造したのは全長三百三十メートル、外幅八十四メートル内幅六十七メートル、許容喫水十五メートル、浮揚力八万トンの世界最大の浮きドックであった。ソ連のような社会主義、全体主義国家にとれば、発注者は船舶関係の公団であっても最終使用者はソ連海軍であることは一点の疑いの余地もない。何故なら現在極東水域において八万トンもの浮きドックを必要とする船舶は、ソ連海軍の虎の子、キエフ型空母(基準排水三万五千トン、最大排水四万トン)をおいて他にないことは明白である。現に十月二日未明、世界一の設備を誇る百万トンドック石播知多工場(愛知県)からソ連への引き渡し先である名古屋港外に引き回された際に現われたのは、ソ連海軍の艦隊随伴外洋砕氷船「マカロフ提督号」(二万百トン)であったことを指摘すれば充分である。

 昨年四月及び九月に各民族派団体が石播に抗議に行ったというが、石播がどういう対応をしたかは我々には知らされていない。週刊誌等の報道によれば「あれは軍事施設ではありませんよ。受注にあたって社内でもめたこともない」(高松昇・重機プラント事業本部統括営業室長談)とか「空母に使われるという人もあるだろうが、われわれはそう判断していない」(同室広報室)という白々しいコメントが伝えられているのみである。

 石播首脳、とりわけこの商談を導いたという経団連・金長・土光に改めて問おう。浮きドックは本当に民需用だったのか、現在どこに配備されどういう使い方をされているのか。この重大なる疑問に対し、石播は明確な回答を国民の前に出してもらいたい。

 わが國は「武器輸出三原則」及び「貿易管理令」によって、武器輸出を認めていない。ソ連に超大型浮きドックを輸出した石幡は、浮きドックが武器でないと明言しているが、防衛庁受注額第一位の企業である三菱重工業の首脳はニューヨークタイムズのヘンリー・スコット・ストークス記者に対し「当の浮きドックはソ海軍の補修専用であり、そのサイズからいえることば空母の補修が目的であり、他のいかなる理由もソ連海軍による買付けを正当化しない」と述べたという(インターナショナル・ヘラルド・トリビューン。パリ、七八年十月三日付)。また昨年十一月の日米防衛首脳定期協議での訪日を前にしてブラウン国防長官は「日本がソ連に大型浮きドックを輸出しなければ、ソ連は極東水域にキエフ級空母を配備し維持することは難しいはずだ」と厳しい対日批判をブチ上げ、問題にする″と脅しては、日本側が米軍駐留費分担三百億円を増額分担せざる得なくしている。

父祖の地を売り渡す蛮行
 石播側が如何に大型ドックは民需用と抗弁しても、以上の事実を追っていけば如何に白々しい嘘であるかがわかるというもの。では敵に塩を送る行為″と批判を受けながら、ひらき直る石播が建造した超大型ドックが、ソ連の極東戦略上どのような位置を占めるかを見てみよう。ソ連の戦略を十分に研究しぬいているのは勿論米国だが、米空軍の「ソ連の政策に占める海軍力」なる研究書によると、ソ連の発進地点の一つは、日本固有の領土でありながらソ連の軍事的横暴の下に在日ソ連軍基地″と化している択捉島単冠湾(ヒトカップ湾)であるという(ソ連太平洋艦隊海軍航空作戦展開図)。

 つい先日、サンケイ新聞によって国後島に三千五百メートル級の滑走路及びレーダー基地が建設されている模様が航空写真で明らかとなって国民を驚かしたが、軍事専門家筋では千島列島最大の島である択捉島がソ連の極東戦略=太平洋制覇のための最大の戦略的価値を有するものであることは″常識″であった。択捉島の戦略的重要性として先ず、不凍港で大艦隊をすっぽりと収容できる良港であり、かつ防御要塞に適した地形、補修基地及び地上軍展開をゆるす拡がりなどの条件に合致していることが挙げられる。第二に真珠湾攻撃は単冠湾から出撃した歴史的事実が示すように、米太平洋司令部根拠地ハワイに対して、艦隊の集結湾として距離的、時間的に理想的位置を占める。第三に単冠湾は横須賀を基地とする米第七艦隊をチェック・メートする位置であるのみならず、米西海岸からの補給線を寸断することもできるなど八〇年代に向けて単冠湾を前進基地とするソ連の軍事的メリットはさらに倍加されるものと思われる。

 こうした北方領土の持つ戦略的意味に加えて、@石播の建造した浮きドックはソ連太平洋艦隊に配備され、キエフ型空母の補修洋上基地となった。A日本製の動く補修基地のソ連海軍向け輸出によってキエフ型空母の西北太平洋配置先は千島列島最大の島−択捉島単冠湾と推定される−というのだ。この結果、キエフ型空母は海底のデルタ型原潜艦隊の水上直衛兼発射管制センターとして立体的に使用される公算が強いという。これに対抗するため米国は日本の海上自衛隊に米第七艦隊の露払い″(対潜、掃海任務)の役割を押し付けてきている。誠に信じ難いことだが、日本の一企業が輸出したもののために、当の日本が苦しめられて対潜哨戒の予算を計上しいるのだから、笑い話の類である。しかし、ことは民族国家の存亡にかかわる重大事である。決して一笑に付すわけにはいかない。

 わが父祖の地でありながらソ連の火事場泥棒的蛮行によって故郷を追い払われた同胞の苦しみを省みず、択捉島単冠湾の有する戦略的価値に、一企業の利益追求の商行為がさらに最大限の付加価値を与えたことを我々は確認しておく必要がある。

 石播側は「私どもはソ連が仮想敵国だと考えていない」(同社広報室課長・椿市造談「週間現代」531130号)というが、そうであるなら同社が防衛庁受注第二位の実績を占める防衛産業など全く不要ではないか。防衛庁が対ソ戦略を第一義としているのは稚児といえども周知の事実である。

 如何なる国とも友好関係を保っていくという日本の外交方針は是としても、逆に日本をめぐる如何なる国もが敵国となり得るのが冷厳な国際政治の現実である。米国のベトナム撤退以後、アジア人同士が血を血で洗う戦いを展開しているが、そこにあるのは国益至上主義の戦争の事実″である。わが國固有領土をして一方的に不法占拠し、沖縄の米空軍嘉手納基地に匹敵する恒久的基地化を狙うソ連に対し、眼と鼻の先に位置する根室市民、及び北海道民が如何に脅怖の念を抱いて日々の営みを送っているか考えてもみよ。我々は断じて石播のかかる売国的行為を容認しない。

 我々は銘記する。経団連会長の土光が石播OBであり現に相談役であること。さらに石播の筆頭株主として「武器輸出管理」の許認可権を持つ通産大臣に三光汽船のオーナーでもある河本敏男がいたことを。政財界一体となった祖國を食いつぶす亡国の利権構造があることを我々は明確に察知した。

 ともすると従来の我々の戦いが時局的現象にのみ眼を奪われ、息の長い闘いができなかったことを痛烈に自己批判しなければならない。すでに超大型浮きドックはソ連太平洋艦隊に配備され、日本の安全を著しく脅かす元凶として機能している。時間の経過が国家的裏切行為をも無化すると信じきっている亡国利権屋集団の徒は民族の怒りの鉄槌いが頭上に下ることを心しておくとよい。こうした民族的犯罪行為にキチンとオトシマエをつけることこそが、浮彫りになった政財界一体の亡国利権構造を徹底的に粉砕する唯一の方途である。

 「浮きドックではいろいろ言われました。でも、あれには多くの含みがあり、その流れ〃の出発点だと申し上げておきます。第二第三の仕事は同種のものか、それ以外のものか、いずれ船ばかりでなく・・・」(石播某幹部、前掲「週間現代」)と語る石播は、自社の犯した重大なる国家に対する背信行為を悔ゆることなく、同様の姿勢にて一層大なる民族的裏切りを犯す危険性がある。我々は重大なる決意を以って、かかる亡国的企業を監視粛正していく覚悟である。